リード文
「仮想通貨が暴落したらどうすればいいですか?」
この質問に答える資格が、私には多少あると思っています。2017年8月に市場へ入ってから9年間、資産が数分の1になる規模の暴落を、当事者として5回くぐり抜けてきたからです。
チャートの上では、暴落は「過去の下ヒゲ」にすぎません。しかし当事者にとっては、含み益が溶け、電気代の請求だけが残り、SNSが阿鼻叫喚になる数ヶ月です。私はその期間、マイニング機材61台の稼働を止めるかどうか悩み、掘った資産を売るべきか抱えるべきか迷い続けていました。
この記事では、9年間で経験した主要な暴落5回を時系列で整理し、それぞれの局面で私が実際に何をしたか(そして何をすべきだったか)を記録します。そして最後に、9年分の結論——「暴落は避けるものではなく、前提として設計に組み込むもの」という考え方をお伝えします。
これから始める人にとっては「先に見ておく地獄のガイドマップ」として、すでに保有している人にとっては「次の暴落への備え」として使ってください。
目次(自動生成)
1. 9年間の暴落5回|全体マップ
まず、私が経験した主要な暴落を一覧にします。価格は当時の報道等に基づく概算です。
| # | 時期 | 通称 | 主な要因 | BTCの下落規模(概算) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 2018年1月〜12月 | バブル崩壊 | 投機過熱の反動、規制強化、ハッキング事件 | 約230万円→約40万円(▲8割超) |
| 2 | 2020年3月 | コロナショック | パンデミックによる全資産の投げ売り | 数日で約半値 |
| 3 | 2021年5月 | 中国ショック | 中国のマイニング・取引禁止強化 | 高値から約5割下落 |
| 4 | 2022年5月〜11月 | Terra崩壊→FTX破綻 | ステーブルコイン崩壊、大手取引所の連鎖破綻 | 年間で約7割超下落 |
| 5 | 2024年8月 | 円キャリーショック | 日銀利上げ観測に伴う世界的な巻き戻し | 短期間で約2〜3割急落 |
こうして並べると分かるのは、おおむね1〜2年に1回は「暴落」と呼ばれる局面が来ているという事実です。9年いれば5回。つまり長期保有を選ぶなら、暴落は「もしも」ではなく「スケジュール」に近いものです。
以下、それぞれの局面を当事者の目線で振り返ります。
2. 暴落①|2018年バブル崩壊——「靴磨きの少年」を自分がやっていた
何が起きたか
2017年12月に約230万円をつけたBTCは、2018年1月から転落を始め、年末には約40万円まで下落しました。1月にはコインチェックのNEM流出事件(約580億円相当)も起き、世間の目は「儲かるらしい」から「やっぱり危ない」へ一変しました。
当時の私
初購入からわずか5ヶ月、マイニング事業を拡大している真っ最中でした。前年末に評価額が5倍近くまで膨らんでいた私は、下落を「押し目」だと思い込み、マイニング投資の手を緩めませんでした。掘っても掘っても採算は悪化し、それでも電気代は月10万円以上出ていく。掘った通貨を下がり続ける相場で売却し、電気代に充てる日々でした。
学んだこと
「まだ上がるはず」と「もう戻らないかも」は、どちらも感情であって分析ではないということ。そして、下落相場で最も危険なのは価格そのものではなく、固定費を抱えたまま下落に付き合うポジション構造だということです。私の場合、それは電気代でした。
3. 暴落②|2020年3月コロナショック——「有事に全部売られる」を知る
何が起きたか
パンデミックへの恐怖で、株も金も暗号資産も、あらゆる資産が同時に投げ売りされました。BTCは数日で約半値に。「デジタルゴールドは有事に強い」という当時の通説は、少なくとも短期では通用しませんでした。
当時の私
マイニング「冬の時代」の底で、正直なところ感覚が麻痺していました。2018年からの下落を耐え続けていたので、「またか」という疲労感の方が強かったのを覚えています。狼狽売りはしませんでしたが、それは胆力ではなく、売るほどの含み益がもう残っていなかったからです。偉そうなことは言えません。
学んだこと
暗号資産は「他の資産と関係なく動く」とは限らないこと。ポートフォリオの分散を考えるとき、「暴落時にはすべての相関が1に近づく」ことを前提に置くようになりました。なお、この暴落の約1年後にBTCは史上最高値を更新しています。投げた人ではなく、残った人が回復を取った——この構図は5回すべてに共通します。
4. 暴落③|2021年5月中国ショック——最盛期の直後に来た崖
何が起きたか
中国当局がマイニングと取引への締め付けを強化し、BTCは4月の高値約700万円から5月には300万円台まで急落。世界のマイニング事業者の大移動が起きました。
当時の私
皮肉なことに、この年は私のマイニングの最盛期で、月次収益は約24万円のピークをつけていました。「一番稼げている時期」と「急落」が同じ年に同居していたのです。収益がピークだったからこそ、「この水準がずっと続く」前提で機材の追加投資を考えていました。急落はその計画に冷や水を浴びせ、結果的には追加投資を思いとどまる材料になりました。
学んだこと
好調時の数字で将来を線形に引き延ばさないこと。そして、暗号資産の価格は市場だけでなく一国の政策で一晩で変わること。「規制リスク」を教科書の言葉ではなく、損益計算書で理解した年でした。
5. 暴落④|2022年Terra崩壊→FTX破綻——「取引所ごと消える」恐怖
何が起きたか
5月にステーブルコインUSTとLUNAが崩壊し、11月には大手取引所FTXが破綻。「価格が下がる」ではなく「預けていた資産ごと消える」という、質の違う恐怖が市場を覆いました。BTCは年間を通じて7割超下落しました。
当時の私
この年の9月、私は5年1ヶ月続けたマイニングからの撤退を決めました。電気代と収益がトントンの状態が続き、「掘るより買った方が合理的」と判断したためです。結果としてFTX破綻の2ヶ月前に事業を畳んでいたことになりますが、これは先見性ではなく、単に自分の損益と向き合った結果のタイミングです。
FTX破綻の報を見たときに思い出したのは、日本で経験してきた取引所の事件——Mt.GOX、コインチェック、Zaif——でした。「取引所に置きっぱなし」こそが固有のリスクだという意識は、この年に決定的になりました。
学んだこと
価格変動リスクとカウンターパーティリスク(預け先が飛ぶリスク)は別物で、後者は分散とウォレットの自己管理でしか減らせないこと。複数口座への分散と、長期保有分のウォレット管理は、この経験からの実践です。
6. 暴落⑤|2024年8月円キャリーショック——「無関係な場所」から来る暴落
何が起きたか
日銀の利上げを引き金に、円を借りて資産を買う「円キャリー取引」の巻き戻しが世界の市場を直撃。株の歴史的急落と同時に、BTCも短期間で2〜3割級の急落となりました。
当時の私
マイニング撤退後、現物の長期保有に回帰していた時期です。過去4回と違ったのは、急落の理由が暗号資産の内側に一つもなかったこと。ハッキングでも規制でもなく、金利です。このときの私は、初めて暴落を「イベント」ではなく「相場の通常運転」として眺められていました。9年目にしてようやく、です。
学んだこと
暗号資産の暴落理由は、業界の外からもやって来るということ。すべての暴落を予測するのは不可能であり、だからこそ「予測」ではなく「設計」で備えるしかない、という次章の結論につながります。
7. 5回の暴落から導いた「やってはいけないこと」と「暴落前提の設計」
暴落時にやってはいけないこと3つ
- パニックの最中に方針を変える: 売るにせよ買うにせよ、暴落当日に決めた方針はほぼ感情です。私のルールは「大きな判断は1週間置く」
- 「安くなったから」と生活資金・借入で買い向かう: 底だと思った場所の下に、もう一段下があるのが暴落です。2018年の私は「押し目」だと信じてマイニング投資を続け、燃料を失いました
- 固定費を抱えたポジションで耐える: 私にとっての電気代のように、相場と無関係に出ていくコストがあると、耐えるべき局面で売らされます
初心者が陥りやすい失敗パターンの全体像は、別記事「失敗する人の特徴10選」にまとめています。
暴落を前提としたポートフォリオの考え方
9年間の結論はこうです。
- 暗号資産は「半分以下になる年が来る」前提の比率に抑える(比率の考え方はポートフォリオ記事参照)
- 失っても生活が壊れない余剰資金だけを入れる
- 長期保有分は取引所に置きっぱなしにせず、預け先を分散する
- 暴落時に何をするかを、平時に文章で決めておく(私は「何もしない」を基本ルールにしています)
参考までに、私が平時に文章化している「暴落時マイルール」はこの3行です。
- 暴落から1週間は、売買に関する新しい判断をしない(積立などの自動実行は止めない)
- 確認するのは価格ではなく、預け先の安全(取引所の稼働・破綻情報)だけ
- 買い増しを検討するのは、下落が始まってから1ヶ月後以降。金額は平時に決めた上限まで
内容そのものより、「事前に書いてあること」に価値があります。暴落の渦中で開くのは、チャートではなくこのメモです。
これは投資助言ではなく、5回の暴落で授業料を払った人間の個人的な設計方針です。ただ、この設計にしてから、暴落は「恐怖」から「想定内のイベント」に変わりました。
8. よくある質問
Q1. 暴落したら買い増すべきですか?
A. 私は「平時に決めたルール通りに動く」以外の答えを持っていません。暴落を見てから考えた買い増しは、私の経験上ほぼ感情的な判断になります。積立のように機械的に買う仕組みなら、暴落時も淡々と安く買えます。
Q2. 暴落はどれくらいの頻度で来ますか?
A. 私の9年間では、大きなものだけで5回。体感では1〜2年に1回です。「次はいつか」は誰にも分かりませんが、「もう来ない」はあり得ないと考えて備えています。
Q3. 暴落中はニュースやSNSを見た方がいいですか?
A. 事実の確認(取引所の破綻・規制など資産の安全に関わる情報)だけに絞ることをおすすめします。恐怖を増幅するだけの情報は、判断の質を確実に下げます。
Q4. 損切りはしないのですか?
A. 現物の長期保有分についてはしません。ただしそれは「半分以下になっても保有し続けられる金額・比率」に最初から抑えているからです。この前提なしの「損切りしない」は、ただの塩漬けだと思います。
Q5. 暴落で損失が出たら、税金はどうなりますか?
A. 個人の暗号資産の損益は原則として雑所得で、同じ年の暗号資産の利益となら相殺できる一方、株式のような損失の繰越控除は現行制度では認められていません(2026年時点の一般的な整理です。最新の税制は国税庁の情報や税理士に必ず確認してください)。年末の損益の考え方は税金の解説記事で扱っています。
9. まとめ|暴落は「もしも」ではなく「スケジュール」
9年間・5回の暴落の記録をまとめます。
- 2018年バブル崩壊: 固定費を抱えて下落に付き合う怖さを学んだ
- 2020年コロナショック: 有事にはすべてが売られることを学んだ
- 2021年中国ショック: 好調時の線形予測と政策リスクの怖さを学んだ
- 2022年Terra・FTX: 価格リスクと預け先リスクは別物だと学んだ
- 2024年円キャリーショック: 暴落は業界の外からも来ると学んだ
そして5回に共通する事実がひとつ。市場から退場した人ではなく、生き残った人だけが、その後の回復に立ち会えたということです。
暴落を避ける方法を、私は知りません。しかし暴落が来ても退場しない設計なら、9年分の実例をもってお見せできます。「必ず来る」を前提に、今日の設計を見直してみてください。
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